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7話-2 殿下のもとで。

last update Last Updated: 2025-12-03 20:00:36

* * *

しばし時間が流れ――午後。ハドリーは邸宅の客間でソファーに腰を下ろしたまま、向かい側のラファルと対峙する。

シルヴィアを抱き締め続けた後、騎士団が荷馬車を伴って到着し、捕縛用の粗末な荷馬車にリリアと継母を押し込み、高貴な馬車にはシルヴィアとフィオンが乗せられた。

そして自分はリゼルと同じく高貴な馬に跨り、この邸宅へと戻ってきたのだが、自ら運び寝かせたシルヴィアは今も自分の部屋で眠ったままだ。

しかしながら、庭でのリリアと継母の取り調べにより、これまでの真相が明らかとなった。

継母は帝都の闇商人から呪いの魔法の粉と、隠れ家の店で噂されていた高価な魔形から身を守る指輪を入手。

リリアはその粉をワインに混ぜ、シルヴィアを殺めようとし、眠り薬を仕込んだ指輪を父であるラファルの贈り物として偽らせ、雇った者達を通じてシルヴィアの手に渡るよう仕組んだという。

休憩室でフィオンも同じ供述をした為、疑いの余地はない。

雇われた者達はリリアの供述により、路地裏で即座に騎士団に拘束され、リリアと継母と共に宮殿の牢獄へ、フィオンは追加の取り調べの為、別の馬車で宮殿へ送られた。

商人が捕まるのも、もはや時間の問題だろう。

「では、話を聞かせてもらおうか」

ハドリーが重い沈黙を破ると、ラファルがゆっくりと口を開いた。

「此度の件は妻ブライアがリリアと共に企てたこと。しかし、アシュリー皇帝に、リリアが是非お会いしたいとの皆を通達したのはこの私だ。――結果、リリア達が皇帝の宴に招かれることとなり、あのような惨事が起きてしまった」

「えらく他人行儀だな」

ハドリーの声は氷のように冷たい。

「シルヴィアがリリアと継母に虐げられていた頃から貴様が無関心を決め込んでいたことはすでに知っているが、皇帝の宴、そして此度の件――シルヴィアを殺めようと一番に企てていたのはお前自身ではないのか?」

ラファルは一瞬、目を伏せた。

「ああ、そうだ。————シルヴィアがこの世から消えることを、私はずっと望んでいた」

その言葉に、ハドリーの指が剣の柄に触れる。

空気が張り
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  • 幸せな偽の花嫁。   8話-2 近くて、遠くて。

    するとシルヴィアは、騎士団の中にフィオンの姿を見つける。 久しぶりに見たフィオンはリリアの護衛となった時よりも背が伸び、凛としていて、かっこよくなっていた。 ふと、フィオンと目が合う。 けれど、話しかけることは出来ず、フィオンは視線を逸らし、シルヴィアの隣を通り過ぎて行く。 そのことで胸がきゅっと痛むもシルヴィアは、ベルと共に騎士長一行をハドリーとリゼルの待つ特別室へと案内した。 ベルと騎士長一行が特別室に入り、シルヴィアは廊下で待機する。 大丈夫だろうか……? 一人不安を抱いていると、特別室の扉が開き、フィオンが出て来た。 「ハドリー殿下が呼んでいる」 「あ、はい……」 フィオンと短いながらも会話が出来た。だが、昔のように名を呼んではくれない。 シルヴィアは複雑な気持ちを抱きながら特別室へと入る。 すると再び入室したフィオンによって扉を閉められ、ソファーに座るハドリーがこちらに視線を移す。 「先程、ベルとフェリクスから薬作りに関しての話を聞いた。そこでお前に一つ問いたい」 ハドリーの鋭い眼差しにシルヴィアの表情が強張る。 「騎士達の薬を作りたいか?」 その問いかけに、シルヴィアは両目を見開く。 (まさか、殿下に自分の意思を聞かれるだなんて…………) 初めてのことに内心動揺するも、シルヴィアはハドリーを強い眼差しで見つめる。 「はい、わたしで騎士達のお役に立てるならば、作りたい、です」 シルヴィアは息を呑み、ハドリーの答えを待つ。 「──ならば、シルヴィア、これより騎士達の薬を作ることを許可する」 (やはりだめ…………え?) 「よ、宜しいのですか……?」 「ああ、良いと言っている。何度も言わせるな」 もう一度、薬を作れる。 「殿下、ありがとうございます」 シルヴィアが優しく微笑むと、ハドリーはふいっと顔をそらし、フェリクスの方に目を向ける。 「薬は出来次第、リゼルより知らせる」 「了解した。薬は騎士の一人に取りに来させよう」 フェリクスはハドリーをじっと見つめる。

  • 幸せな偽の花嫁。   8話-1 近くて、遠くて。

    * * *その夜、シルヴィアはベルに付き添ってもらいながら書斎に伺った。動けるようになったので一人で平気だと伝えたものの、念の為とのこと。(今まではどんなに辛かろうとも一人で行ってきたのに……。ベルの優しい対応につい戸惑ってしまう……)「殿下、シルヴィア様をお連れ致しました」ベルが扉の前で伝えると、書斎の内側からハドリーの声が響く。「シルヴィア、入れ」「はい」シルヴィアは短く返す。するとベルが一歩前に出る。「扉は私が」ベルの手によって扉を開けられ、そのことに内心驚きつつも、お礼の会釈をし、書斎の中へと入った。ぱたん、と扉が閉まり、書斎の席に座るハドリーと目が合う。「あの、殿下……」「窓の近くまで来い」「はい」シルヴィアは言われた通り、窓の近くまでいく。するとハドリーが席から立ち上がり、窓のカーテンを開ける。夜空に美しく見事な月が浮かぶのが見えた。「わ、大きな月……」シルヴィアは声を上げると同時に、ハッと我に返る。(あまりにも美しくてつい声を上げてしまったけれど、殿下にじっと、見られているわ……はしたなかったかしら……)「体調の変化はあるか?」「いえ、特に何も……」「そうか」(……? 殿下、一体どうなさったのだろう?)疑問に思うと、ハドリーが息を吐き、真剣な眼差しでこちらを見据える。「陛下から、月には気をつけよ、とのお達しが出た」ハドリーの言葉に、シルヴィアは息を呑む。「その為、今後、夜に月を眺めること、及び、夜の外出を一切禁ずる。良いな?」「かしこまりました……」* * *そして3日を過ぎた午後のこと。邸宅に騎士長一行が再び訪れた。

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    「それが、お前の願いか」 ハドリーの声が静かに響き、頭上からカチリと剣を鞘から抜きかける音がした。 金属の冷たい擦れが、部屋の空気を鋭く裂く。 ————ああ。ついに斬られる。 シルヴィアは目を閉じ、死を覚悟した。 体が小刻みに震え、息が詰まる。だが、次の瞬間、剣が鞘に収まる乾いた音が響き、足音が近づいてくる。 ハドリーが膝を折り、目の前にしゃがむのが分かった。 「頭を上げろ」 低い、抑えた声。シルヴィアは怯えながら恐る恐る顔を上げた。 ハドリーの瞳はどこか優しげで、シルヴィアの胸がざわめく。 「斬られることがお前の願いだとしても、私はお前を斬る気はない」 ハドリは一瞬、視線を逸らさず見つめ返した。 真剣な眼差しに、シルヴィアは息を呑む。 「シルヴィア、お前こそが本物の聖姫なのだから」 「え……それは、一体?」 声が震えた。信じられない。 「亡妻ルーシャと共に月の下で聖姫の力を封印した————とお前の父、ラファルから聴取の際に聞いた。よって、お前には聖姫の力が宿っている」 「わたしに……聖姫の力が……?」 驚きと戸惑いが喉を締めつけた。世界が歪むような感覚。 「ああ。そして、お前は薬を作っていたそうだな」 「おとうさまから聞いたのですか?」 「いや、これはフィオンからだ。お前は気づいていなかったようだが、お前に聖姫に似た香りを感じたことがある。そして、時折微かに発光し、魔形に捕らわれた時には、いつにも増して発光していた。よって、薬を作っている際にも恐らく発光し、お前が作った薬や皇帝に飲ませた薬も聖姫の力が込められていた為、民や皇帝に効いたのだろう」 「そう……だったのですね……」 声が掠れた。 自分の体が、知らぬ間にそんな力を宿していたなんて。 「これも私の見解だが、聖姫の花に触れた際に発光と共に拒絶にも取れる反応を示したのは、恐らく、力が封じられているのが原因だろう」 「なぜ、お母さまとお父さまは……聖姫の力を封印したのでしょうか……?」 シルヴィアの声が、かすかに震える。 ハドリーは一瞬、目を

  • 幸せな偽の花嫁。   7話-4 殿下のもとで。

    「どうかしたか?」 ハドリーが静かに問いかける。 「あ、もう大丈夫です……」 「そうか」 ハドリーは立ち上がり、湯気を立てるスープの器をテーブルに置き、再び椅子に腰を下ろした。 「これより、此度の件と皇帝の宴の真相について伝える」 「はい」 シルヴィアが小さく頷くと、ハドリーは淡々と語り始めた。 リリアはハドリーと自分が帝都へ偵察に行った翌朝、にその噂を耳にし、すぐに父に頼み込み、皇帝の元へ通達。こうして皇帝の宴に招かれることとなった。 だが、リリアはハドリーの美貌に心を奪われ心変わりし、シルヴィアを排除する為、継母が闇商人から入手していた魔法の呪いの粉をワインに混ぜた。 ところがメイドの誤りで、皇帝がそのワインを口にしてしまい、その後、シルヴィアが皇帝を救う姿を継母と目撃したリリアは、再び画策。 継母が同じ商人から手に入れた眠り薬を仕込んだ指輪を、父ラファルの贈り物と偽らせ、雇った者たちを通じてシルヴィアの手に渡るよう仕向け、攫わせ、継母と共に甚振って弱らせ、ゲートが開いていないのに魔形が偶然現れたことを利用した。 継母を守り、【本来自分のものだったはずのもの】を取り戻す為。そして本物の聖姫だと証明する為、魔形に差出し、更に、帝都の隠れ家で店員達が噂していた『魔形から身を守る高価な指輪』————その破片が庭に残されていたことで、リリアが黒幕である手がかりが掴めたとのことだった。 「それで、此度の罪についてだが」 シルヴィアはごくりと息を呑む。 「リリアが雇った者達、呪いの粉と指輪を継母に売った商人は永牢。リリア、継母、そして父ラファルは————アシュリー皇帝とお前を殺めようとした罪で、国外追放。一家離散となる」 ハドリーから意外な結果を聞き、シルヴィアは両目を見開く。 「あの……それは命は取られずに済んだということでしょうか?」 「ああ。死刑でもおかしくなかったが、皇帝が配慮してくれたそうだ」 安堵が胸に広がる。 自分のせいで誰かが死ぬのは嫌だから良かった。 けれど————リリアの護衛となったフィオンはどうなるのだろう? 「で、殿下、その……

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    ハドリーは氷のような眼差しでギリッと睨みつけ、静かに告げた。 「聴取は終わった。連れて行け」 その声に応じ、リゼルが扉を開ける。騎士達がラファルの両腕を掴み、無造作に立たせ、引きずるように連れ去っていく。 そして扉が閉まる音が響いた瞬間、ハドリーは右手で顔を覆う。 予感はあった。だが、シルヴィアの死を一番に願っていたのが実父だったとは。 それだけでなく、シルヴィアは聖姫の力を宿していた。しかし、封印されたままでは――。 ハドリーはふと視線を落とし、鞘を見つめる。 「……明日で期限の2日前か」 (シルヴィアが目覚めたその時は、覚悟を決めなければ) * * * 翌朝、シルヴィアはふと柔らかな陽射しを感じ、目を覚ました。 シーツの匂いは自分の部屋のものだ。包帯の感触が肘から肩へ、ぴったりと巻かれ、手当てもされている。 「……目覚めたか」 聞きなれた低く、冷たい声。この声は。 シルヴィアは隣に視線を移すと、月夜のように美しい長い髪を緩く一本の三つ編みにまとめ、肩から前に垂らしたハドリーの姿が目に映る。 シルヴィアは息を呑むも思わず口を開く。 「で……ゴホッ」 「大丈夫か? すまない、驚かせたようだな」 「で、殿下がここまで……?」 「ああ。馬車に乗せ、邸宅まで連れ帰った後、ここまで私が運んだが昨日は起きず、心配していたが目覚めて良かった」 シルヴィアは唇を震わせる。 「お手を煩わせてしまい、申し訳ありません……」 「いい。それより、ベルにスープを用意させた。食べられそうか?」 シルヴィアはコクンと頷くと、一人で起き上がろうとする。 するとハドリーが支え、起こしてくれた。 「あ、ありがとうございます」 シルヴィアがお礼を言うと、ハドリーは立ち上がり、テーブルから湯気の立つスープが入った器を手に取る。だが、渡す気配がない。 「あ、あの?」 「口を開けろ」 「はい」 言われた通り口を開けると、ハドリーがスプーンでスープをすくい、シルヴィアの口の中に入れる。 ――殿下が。

  • 幸せな偽の花嫁。   7話-2 殿下のもとで。

    * * *しばし時間が流れ――午後。ハドリーは邸宅の客間でソファーに腰を下ろしたまま、向かい側のラファルと対峙する。シルヴィアを抱き締め続けた後、騎士団が荷馬車を伴って到着し、捕縛用の粗末な荷馬車にリリアと継母を押し込み、高貴な馬車にはシルヴィアとフィオンが乗せられた。そして自分はリゼルと同じく高貴な馬に跨り、この邸宅へと戻ってきたのだが、自ら運び寝かせたシルヴィアは今も自分の部屋で眠ったままだ。しかしながら、庭でのリリアと継母の取り調べにより、これまでの真相が明らかとなった。継母は帝都の闇商人から呪いの魔法の粉と、隠れ家の店で噂されていた高価な魔形から身を守る指輪を入手。リリアはその粉をワインに混ぜ、シルヴィアを殺めようとし、眠り薬を仕込んだ指輪を父であるラファルの贈り物として偽らせ、雇った者達を通じてシルヴィアの手に渡るよう仕組んだという。休憩室でフィオンも同じ供述をした為、疑いの余地はない。雇われた者達はリリアの供述により、路地裏で即座に騎士団に拘束され、リリアと継母と共に宮殿の牢獄へ、フィオンは追加の取り調べの為、別の馬車で宮殿へ送られた。商人が捕まるのも、もはや時間の問題だろう。「では、話を聞かせてもらおうか」ハドリーが重い沈黙を破ると、ラファルがゆっくりと口を開いた。「此度の件は妻ブライアがリリアと共に企てたこと。しかし、アシュリー皇帝に、リリアが是非お会いしたいとの皆を通達したのはこの私だ。――結果、リリア達が皇帝の宴に招かれることとなり、あのような惨事が起きてしまった」「えらく他人行儀だな」ハドリーの声は氷のように冷たい。「シルヴィアがリリアと継母に虐げられていた頃から貴様が無関心を決め込んでいたことはすでに知っているが、皇帝の宴、そして此度の件――シルヴィアを殺めようと一番に企てていたのはお前自身ではないのか?」ラファルは一瞬、目を伏せた。「ああ、そうだ。————シルヴィアがこの世から消えることを、私はずっと望んでいた」その言葉に、ハドリーの指が剣の柄に触れる。空気が張り

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